• スペイン語の教材や文化情報をお届け

「私は彼の肩に手を置いた」ちょっと出てきにくい間接目的格の用法

先日の授業で、

Le puse la mano en el hombro.

という例文を扱いました。「私は彼の肩に手を置いた」という意味ですね。そして、この例文について、

「この le は何ですか」

という質問を頂戴しました。結論から言いますと、この le は三人称・単数の間接目的格代名詞です。「私は彼の肩に手を置いた」の「彼の」の部分を担当しています。

ただまあ、わかりづらいですよね。「私は彼の肩に手を置いた」ということなのに、なんで所有格の su ではなく le という間接目的格を使うのか?日本語母語話者ならそう思うのではないでしょうか。

また、この文、正しく解釈できる人は一定数いるかと思いますが、

Le puse la mano en el hombro.

を自力で産出できる人はあまりいないんじゃないかと思います。ただ、それだけにこの文ってスペイン語っぽさが凝縮されてもいるのですね。こういう文を自分で組めるようになると、読む、理解するスピードも段違いに上がりますし、表現の自然さみたいなものもおのずとあがります。そんなわけで、「私は彼の肩に手を置いた」ということを表現するのに、スペイン語母語話者はどのような発想で Le puse la mano en el hombro. というのかを紐解いてみましょう。

意外と授業で教えられない二つの原則

お題の文は以下の二つの原則に従った結果、生じたものです。二つとも、あまり授業とか教科書で触れられないので(個人的にはすごく大事だと思うのですが)、学習者はなかなかこういう文を作れるようにならないのかなと。

  • スペイン語では目的語の省略は原則不可
  • 自明なことは言わない、繰り返さない

さて、これを踏まえて、↓の光景をスペイン語で表現してみましょう。スペイン語母語話者は以下のようなことを考えます。

主語 (誰が?):         Yo
動詞(何をする?):  置いた puse
直接目的(何を?)   手 la mano
場所 (どこに):  彼の肩に en el hombro
間接目的 (誰に対して?): 彼に    le

お判りでしょうか。スペイン語母語話者と我々日本語母語話者の決定的な認識の違い。スペイン語母語話者は「誰かに対してなされた行為」を表すときに、その間接目的格、「誰に」の部分を重要パーツとして認識します。そして、スペイン語では目的語の省略は原則不可なわけですから、都度、几帳面に、この「誰に」の部分を明示します。質問をしてくれた方を悩ませた、

Le puse la mano en el hombro.

の le は、このような経緯でつけられていたというわけです。逆に、日本語だと、この「誰に」の部分は明示してはいけないケースが大半です。「私は彼に対して肩に手を置いた」って変でしょ。

ポイントは、我々の母語の日本語は主語も目的語もガンガン省略される言語であるということです。そのため、スペイン語のような目的語は絶対に省略したくない言語を見るとわかりづらかったり、スペイン語らしい文を作るのに苦労するということになります。対処法はシンプルで、日本語とスペイン語の間にはこのような決定的な違いがあることを受け入れ、認識することです。ここを認識するだけでもかなり違ってくるでしょう。そして、人に向けられた行為を描写するときは徹底して「誰に」の部分を明示するよう心がけることです。初級レベルの時にこそ徹底してほしいなと思います。大丈夫、すぐ慣れます。

ちなみに、日本人がやりがちなミスに↓のようなものがあります。

Le puse la mano en su hombro.

en el hombro ではなく、en su hombro としてみたわけですが、これがなぜダメなのかわかるでしょうか。

そう、もうすでに、文頭で le 「彼に対して」ということを明示しているので、手を置いた肩が「彼の肩」であることは明白なわけです。それにもかかわらず、su hombro としてしまうと原則その 2. 自明なことは言わない、繰り返さないに引っかかるため、不適です。しかし、彼の肩というのは肩一般というわけではなく、特定の肩ですから、定冠詞くらいはつけよう。ということで、

Le puse la mano en el hombro.

となるわけですな。このあたりの考え方は再帰動詞の間接再帰用法とか、従属節を使うときに大事になってきます。頑張って慣れてください。

……また長くなってしまった。どうも短くすぱんと説明するのが下手やな、わし。要は、スペイン語は、

「私は彼に対して手を肩に置いた」

という言い方を好んでする言語であるということを覚えておいてね、日本語と発想が全く違うので、要注意ポイントですよ。

ということだけを言いたかったのでした。

つたぴのスペイン語はついつい話が長くなりがちな人たちを応援しています。

コメント一覧

Yuta Takamatsu2021年2月3日 6:46 PM / 返信

 ご説明、とても分かりやすかったです。  言語(学)好きからかもしれませんが、全然長いと感じず、むしろコンパクトにまとめられてあり、シュッとした説明だなあ と思いました。  記事中の2大原則は学習するにつれ薄々気づく人も多いでしょうが、原則自体を明確に言語化されることで 意識的に「スペイン語らしいスペイン語」で発信・受信できますよね。  ここで質問があります。「再帰動詞の間接再帰用法とか、従属節を使うときに大事になってきます。」というのは、それぞれ 具体的にどのような場合でしょうか。簡単な例文があれば、文のみでも構いませんので教えてください。 また、"Le puse la mano en el hombro."はいわゆる「利害の与格」的な用法のひとつとして捉えられるでしょうか?ぜひご返答をお待ちしております。

    tsutapino2021年2月4日 10:03 AM / 返信

    君レベルになると私を喜ばすコツみたいなのを掴んどるな。ありがとう。 間接再帰用法というのは、「私は手を洗った」みたいなケースね。 こちらも、Yo lavé mis manos. みたいにやると不自然(英語はこういう書き方ですが)。 Me lavé las manos. だな。 従属節云々は余計だったかな。接続法が出てくるあたりから、「不定詞をつかうのか、従属節 + 接続法を使うのか」みたいな二択を迫られることが多いわけですが、 その際に判断の指針になるのが「わかってることはわざわざ言わない」という原則です。不定詞で充分に情報を伝えられるなら不定詞で行きましょうね。というやつ。 本筋と毛色が違う割に説明が圧倒的に不足していたわね。 「利害の与格かどうか」ですが、これは「間接目的語の所有を表す用法」とするのが普通やろうね。 個人的には「利害用法」と「所有用法」は地続きで、境界は曖昧、という理解ですが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です